カネの流れが一挙に消滅し、未曾有の世界金融危機を引き起こした

 なぜ、カネは循環しないのか。日本の銀行は毎月前年比で10兆円前後も貸し出しを減らし、入ってくる預金を使って同30兆円前後も国債を買い増す。政府は国債発行で得た国民の貯蓄をデフレ克服に振り向けるすべを知らない。企業も増える手元資金で国債を買い、設備投資を見合わせる。だれもがリスクをとらない。


 米国では、投資ファンドが余剰ドルを日本円や米国債、原油、金(きん)、穀物などに振り向ける。いずれも生産や消費に結びつかない一過性の投機である。日米ともカネの流れはそこで行き止まる。


 市場経済で、カネが活発に行き交う主舞台は本来、生産や消費という実物経済ではなく資産市場である。日本の80年代後半には不動産と株式の資産バブルが膨らんだ。金融機関は入ってくる預金を、企業は時価発行増資で得た資金をこれら資産市場につぎ込み、ちまたではぜいたく消費が横行した。カネはバブルにまみれながら踊り回ったのである。


 米国の場合、リーマン前までカネを循環させる装置は金融商品だった。金融機関は住宅ローンを証券化して焦げ付きリスクを見かけ上小さくした証券化商品や、各種債務の返済を保証する保険商品である金融派生商品を乱発した。おかげで多重債務者や低所得者でも住宅ローンを借り入れ豪勢な住宅を手に入れ、輸入消費にふけった。世界の余剰マネーとモノが米国に殺到したが、バブル崩壊とともにカネの流れが一挙に消滅し、未曾有の世界金融危機を引き起こした。










田村秀男さんの「田村秀男の経済がわかれば、世界が分かる」:イザ!